老後ひとりの不安|今から作る頼り先と縁の増やし方
夜中に目が覚めて、天井を見ながらふと考えてしまう。もし今、急に具合が悪くなったら、誰に連絡するんだろう。頭の中で連絡先を順番にたどって、どの名前でも指が止まる。朝になれば忘れているのに、その夜だけは妙にはっきりと怖い——。老後にひとりでいることへの不安は、たいていこの時間帯にやってきます。
こんにちは、縁の整え方の専門家・出雲です。最初にお伝えしておきたいのは、この不安は「準備が足りない人」に起きるものではなく、先のことを考えられる人に起きるものだということです。先に結論をお伝えしますね。
- 夜に不安が大きくなるのは、いくつもの心配が「ひとり」という一語にまとめて詰め込まれているからです
- ひとりの老後に効くのは、なんでも話せる濃い一人ではなく、薄いつながりが複数あることです
- 頼り先は、今日・今年・これからの5年という三つの時間の層に分けて作っていけます
この記事では、お金や資産のことには触れません。そこは専門の窓口の領域です。ここでお話しするのは、人とのつながりに絞った備えです。
夜に不安が大きくなるのは、正体がひとまとめになっているから
まず、あの夜の感覚の仕組みからお話しします。
「老後にひとりで大丈夫だろうか」という問いの中には、実はまるで性質の違う心配が同居しています。倒れたときに気づいてもらえるかという心配。手続きや判断を誰と相談するかという心配。何日も誰とも話さない日が続くのではないかという心配。そして、自分は誰にも必要とされていないのではないかという、いちばん深いところの疑い。
これらが「ひとり」という一語にまとめて入っているので、手のつけようがなく、ただ大きく感じられるのですね。不安というのは、輪郭がぼやけているときがいちばん強く出ます。
ですから、やることは「不安をなくす」ことではなく、ひとつずつ別々の場所に置き直していくことです。倒れたときの心配には仕組みで応じる。話す相手がいない心配には、通う場所で応じる。それぞれ効く手当てが違います。
そしてもうひとつ。ひとりで暮らすことと、孤立することは別です。同居している人がいても孤立している方はいますし、ひとり暮らしでも顔なじみが十人いる方は孤立していません。問題は暮らし方ではなく、つながりの本数なのですね。
必要なのは「濃い一人」ではなく、「薄い縁が複数」
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
老後の備えを考えるとき、多くの方が「なんでも相談できる人が一人ほしい」と考えます。気持ちはとてもよくわかります。けれど、一人に頼る形はもろいのです。相手が先に体調を崩すこともあれば、遠くへ引っ越すこともある。そして何より、一人に全部を預けると、その人に頼るハードルがどんどん上がってしまいます。
かわりに効くのは、薄いつながりを何本も持つことです。回覧板を渡すだけの隣の方、いつも同じ時間に会う散歩仲間、月に一度の教室で顔を合わせる人、行きつけの店の主人。一本ずつは細くて、深い相談などできません。それでいいのです。
こうした細い縁には、深い縁にはない働きがあります。姿が見えないときに「あれ、どうしたのかな」と気づいてもらえる。そして、頼むときの負担が驚くほど軽い。深い関係ほど、迷惑をかけたくないという気持ちが働いて、かえって頼めなくなるものなのですね。穏やかに歳を重ねている方ほど、太い縁は少なく、細い縁が多い。年代とともに縁の作られ方が変わっていく流れは年齢とともに縁が変わる意味でお話ししました。
今日できること——三つだけ
不安が強い夜には、大きな計画より、今日中に終わる小さなことが効きます。
- 緊急のときに連絡する人を、一人だけ決めます。親しさで選ばなくてかまいません。連絡が取りやすい人で十分です。決めたら、その人に「もしものときは連絡させてね」と一言伝えておきます。伝えた時点で、その不安は半分ほど小さくなります
- お住まいの市区町村に、高齢者の相談窓口である地域包括支援センターがあります。今日はその場所と電話番号を調べて、メモに残すだけでかまいません。使う予定がなくても、あることを知っているだけで夜の不安の質が変わります
- 名前で呼び合える人を、頭の中で数えてみます。何人でも問題ありません。ゼロでなければ、そこから増やしていけます
三つとも、誰かに会う必要のないことです。不安が強いときは、人に会うことがそのまま負担になります。だからまず、動かずにできることから置いていきましょう。
今年のうちにしておきたいこと
少し余裕が出てきたら、一年の視野で考えます。
まず、定期的に通う場所を一つ作ります。週に一度でも、月に一度でもかまいません。教室、体操の会、図書館、地域の行事。大事なのは、友達を作りに行くのではなく、通うだけでいいということです。同じ時間に同じ場所にいる人同士は、話さなくても互いを覚えます。細い縁は、この覚えられる段階から始まります。
次に、住んでいる地域にどんな見守りの仕組みがあるかを、一度だけ調べてみてください。自治体によって、安否確認の電話、配食に合わせた見守り、緊急通報の装置の貸し出しなど、用意されているものが違います。内容も条件も地域ごとに異なるので、詳しいことは市区町村の窓口や地域包括支援センターに聞くのがいちばん確かです。使う使わないは後で決めればよく、今年は知っておくだけで十分です。
そして、一年に一度、縁を棚卸しする日を決めておくのもおすすめです。年末でも、誕生日でもかまいません。今つながっている人の名前を書き出して、細くなった縁に一言だけ連絡する。年に一度の作法として整えたい方は年末に縁を整える方法を参考にしてみてください。
これからの5年で、ゆっくり作っていくもの
もう少し長い目で見たときに効いてくるものが、二つあります。
ひとつは、年下の縁です。同年代だけでつながっていると、いつか全員が同じように歳を重ねます。年下の知り合いが数人いるだけで、暮らしの手ざわりがずいぶん変わります。年齢の離れた縁は、共通の関心があるところで自然にできます。教える、教わる、どちらの側でも構いません。
もうひとつは、頼る練習です。これが実はいちばん難しい。長く一人でやってきた方ほど、人に頼むことが下手になっています。いざというときに頼れるかどうかは、性格ではなく慣れの問題です。
練習の仕方は簡単です。困っていないときに、小さな頼みごとをしてみる。「この瓶の蓋が開かないの」「この機械の使い方がわからなくて」。頼まれた側は、たいてい嫌がりません。この小さな往復を何度かしておくと、本当に困ったときの一言が出てきます。
「友達がいないほうが楽」と感じている方も多いと思います。その感覚は否定しなくて大丈夫で、友達いない方が楽と感じる心理でお話ししたとおり、消耗する関係を減らすのは正しい判断です。ただ、楽であることと、頼り先があることは両立します。全部を切らずに、細い糸だけ残しておく。それが後半のいちばん現実的な形だと私は思っています。
不安が強くて眠れない夜が続いているなら
ひとつ、気にかけていただきたいことがあります。
将来のことを考えると眠れない日が続いている、気持ちの落ち込みが二週間以上抜けない、食欲が落ちている。そうした状態なら、それは備えが足りないからではなく、心と体が疲れているサインかもしれません。心療内科やカウンセリング、お住まいの自治体の健康相談窓口など、専門の相談先を頼ってみてください。
不安は、疲れているときにいちばん大きく育ちます。よく眠れた日の夜に同じことを考えても、たいていここまで怖くはならないものです。順番として、まず体を休めることを先に置いてくださいね。
縁切り・開運の視点——細い縁ほど、長く残ります
縁を見つめてきた立場から、最後にお話しさせてください。
昔から、縁は太さより本数だと言われることがあります。太い縁は心強い一方で、なくなったときの空白も大きい。細い縁は一本ずつは頼りなくても、簡単には全部が消えません。人生の後半に残るのは、たいてい後者のほうです。
そして、細い縁の作り方に特別な才能はいりません。同じ時間に同じ場所にいること、名前を覚えること、小さな頼みごとをすること。それだけです。若い頃のように場が運んでくれなくなったぶん、こちらから通う。40代以降の不安の分け方については40代で友達がいない不安の正体にまとめてあります。
もうひとつだけ。ひとりでいることを、失敗のように扱わないでください。ひとりで立てる人が、細い縁を何本か持っている状態——これは弱い形ではなく、むしろ強い形です。誰かに寄りかからずに立てるからこそ、人と穏やかに関われるのですから。
まとめ
- 夜の不安が大きいのは、性質の違う心配が「ひとり」の一語にまとまっているからです
- 必要なのは濃い一人ではなく、薄い縁が複数。細い縁ほど頼るハードルが低くなります
- 今日は連絡先を一人決めて相談窓口を調べる。今年は通う場を一つ作る。5年かけて年下の縁と頼る練習を
今のつながりが、これからの暮らしを支える形になっているか。いちど確かめてみると、次に何を増やせばいいかが見えてきます。
これからの縁の作り方は、LINEでも配信しています。