相手に尽くしすぎるのをやめたい|棚卸しの手順
スーパーの棚の前で、無意識に相手の好きなヨーグルトを手に取っている。自分が食べたいものは、そのあとで考える。連絡が来たら十秒で返す。相手の予定に合わせて自分の予定を後ろにずらす。相手が困りそうなことは、言われる前に片づけておく。誰にも褒められないし、相手も気づいていない。それなのに、やめようとすると落ち着かない——。相手に尽くしすぎるのをやめたいと調べてきたあなたは、たぶん、自分でもこの癖に少し疲れているのだと思います。
先に結論をお伝えします。
- 尽くしすぎがやめられないのは、優しさのせいでも意志の弱さのせいでもありません。やめた瞬間にできる空白が怖いからです
- だから「自分を大事にしましょう」では動きません。動くのは、尽くしている行為を全部書き出して、やめる順番を決めたときです
- やめる順番には、相手が気づきにくいところから始めるという定石があります
「自分を大事に」で動けないのには、理由があります
尽くしすぎに悩む方が、いちばん多く言われてきた言葉が「もっと自分を大事にしなよ」だと思います。正しい言葉です。でも、これを聞いて実際にやめられた方を、私はあまり見たことがありません。理由は二つあります。
ひとつは、尽くすという行為が、不安を下げる方法になっているからです。相手のために動いている間は、「見捨てられないだろうか」という問いを考えなくて済みます。手が動いているときは、心が休めるのですね。だから、やめると不安のほうが戻ってきます。これでは続きません。
もうひとつは、尽くしすぎている方の多くが、自分が何をどれだけやっているのかを把握していないからです。毎日のことになりすぎていて、行為として認識されていない。数えていないものは、減らせません。
ですから、この記事では気持ちの持ち方から始めません。まず、あなたが実際にやっていることを全部机の上に出します。そこから、やめる順番を決めていきます。
尽くしている行為を、4つに仕分けます
一週間、スマホのメモで構いませんので、相手のためにやったことを片っ端から書いてください。「返信を三分以内に返した」「彼の分の飲み物を買った」「予定を空けておいた」。小さいものほど大事です。
一週間たったら、それぞれに次の記号をつけます。
Aは、相手から頼まれてやっていることです。「これお願い」と言われたもの。合意の上にある行為です。
Bは、頼まれてはいないけれど、喜ばれていることです。相手が「ありがとう」と言うもの。存在は認識されています。
Cは、頼まれてもいないし、気づかれてもいないことです。先回りして片づけたこと、言わずに我慢して合わせたこと、相手が知らないところで調整したこと。ここがいちばん多くなる方が大半です。
Dは、本来は相手の責任なのに、あなたが肩代わりしていることです。相手の職場や家族への連絡、忘れた支払い、生活の管理。お金の立て替えが続いているなら、それもここです。
書き終えたら、数を数えてください。CとDが半分以上なら、あなたが疲れているのは当然です。感謝も合意もない労働が、生活の半分を占めているということですから。
やめる順番は、C、D、B、Aです
いきなり全部やめようとしないでください。関係が急に軋みますし、あなた自身が耐えられなくなります。順番があります。
最初にやめるのはCです。誰も気づいていないのだから、やめても誰も困りません。ここでやめるのは相手のためではなく、あなたの手を止める練習のためです。
- Cのリストから、いちばん小さいものを3つ選ぶ
- 一週間、その3つだけをやらない
- やらなかった日に何が起きたかをメモする。たいてい、何も起きません
「何も起きなかった」という体験が、次の段階に進む燃料になります。頭で理解するより、この体験のほうがずっと効きます。
次がDです。ここは、相手に返す作業になります。
- 肩代わりしている中から、一つだけ選ぶ
- 「これ、来週からは自分でお願いできる?」と、一度だけ言う
- 相手がやらなくても、代わりにやらない。困るのはあなたではありません
3番目がいちばん難しいところです。相手が困っている様子を見ると、手が出てしまう。でも、ここで手を出すと、Dはあなたの担当として固定されます。新しいお金の貸し借りも、ここで止めてください。
そのあとがBです。全部やめる必要はありません。頻度を落とすだけで十分です。毎回だったものを、月に一度の楽しみに変える。「いつもやってくれること」から「たまにしてくれる嬉しいこと」に変わると、その行為の価値が戻ってきます。
最後がAです。ここは合意のある行為なので、やめるには話し合いが要ります。負担が偏っているなら、分担として相談してください。ここまで来た頃には、相談を切り出す体力が戻っているはずです。
断ること自体が苦手で口が動かないという方は、断れない性格を治す4ステップを先に読んでおくと楽です。そして、恋愛以外の場面でも同じ役回りをしているなら、根っこは一つかもしれません。いい人をやめたいと思ったときの卒業法もあわせてどうぞ。
やめたときに返ってくる反応は、3通りです
先に知っておくと、動揺が減ります。
一つ目は、気づかない。CやDをやめても、相手は何も言いません。寂しく感じるかもしれませんが、あなたの労力がもともと関係の必須条件ではなかったということですから、安心して減らせます。
二つ目は、戸惑って聞いてくる。「最近どうしたの」「何か怒ってる?」。これは良い反応です。ここで「怒ってないよ、少し自分の時間を作りたくて」と伝えられれば、関係は組み替えの方向に動きます。
三つ目は、責める。「冷たくなった」「前はやってくれたのに」。この反応が出たときは、はっきり見えたものがあります。相手が大事にしていたのは、あなたではなく、あなたの提供していた便益だったかもしれない、ということです。
三つ目が出たからといって、すぐに関係を終わらせる必要はありません。ただ、記録はしておいてください。減らすたびに責める、機嫌で罰する、埋め合わせを要求する。こういう反応が繰り返されるなら、力の傾きを見たほうがいいでしょう。受け取るばかりの相手との距離の取り方は、エナジーバンパイアの撃退方法にまとめました。
空いた時間の使い道を、先に決めておいてください
尽くすのをやめた人がいちばんつまずくのは、やめたあとの空白です。
これまで相手のことを考えていた時間が、そのまま空きます。すると、その空白に不安が流れ込んできます。そして、耐えられなくなって、また尽くす行動に戻る。この往復を何度も見てきました。
ですから、やめると同時に、埋めるものを決めておきます。
- 週に一度、時間の決まった予定を入れる(習い事、通院、友人との約束など、キャンセルしにくいもの)
- 一日15分、相手と無関係な作業をする時間を固定する
- 寝る前に、「今日、自分のためにやったこと」を一行だけ書く
3番目は地味ですが、効きます。自分の価値を、相手の反応ではなく自分の行動で確認する練習になるからです。尽くすことでしか自分を確かめられない感覚に心当たりがあるなら、恋愛依存から抜け出す方法に支点の戻し方をまとめてあります。
やめようとすると強い不安が出るとき
尽くしすぎについて調べていると、共依存という言葉を目にすることがあると思います。関係の形を説明する概念としては役に立ちますが、自分に当てはめて診断のように使うと、かえって身動きが取れなくなります。言葉を当てはめる代わりに、生活がどうなっているかを見てください。
やめようとすると動悸がする、眠れない日が続く、相手と連絡が取れない時間に強い不安に飲まれる、仕事や家事に支障が出ている。こうした状態があるなら、一人で進めなくて大丈夫です。カウンセリングは、こういう癖の成り立ちを専門家と一緒にほどいていける場所です。頼ることは、逃げではなく手段ですよ。
そして、相手からお金を求められ続けている、借金の肩代わりや保証人を頼まれている、行動や交友関係を細かく把握されている、人格を否定する言葉を日常的に浴びせられている。こうしたことがあるなら、尽くしすぎという枠を越えています。配偶者暴力相談支援センターにつながるDV相談ナビ(#8008)、警察相談専用電話(#9110)、金銭や法的な整理は法テラスや弁護士など、外の力を先に借りてください。
縁を整える視点から
昔から、人の気は、意識を向けた方向へ流れていくと言われてきました。一日の大半を誰かのために使っていれば、その分だけ自分に残る量は減っていきます。尽くしすぎている方の疲れは、体の疲れというより、この目減りの感覚に近いのではないかと思います。
もうひとつ、長く見てきて感じることがあります。与える量と、大事にされる度合いは比例しません。むしろ、与えすぎると相手はそれを前提として扱うようになります。相手が薄情だからではなく、当たり前になったものに人は気づけない、という性質のためです。
だから、尽くすのをやめる作業は、愛情を減らす作業ではありません。あなたが差し出しているものに、もう一度重みを戻す作業です。減らしても変わらない関係こそ、あなたが安心して長くいられる関係だと思いますよ。
まとめ
- やめられないのは意志の問題ではなく、やめたあとの空白が怖いからです
- 尽くしている行為をA〜Dに仕分けて、気づかれていないCから順にやめていきましょう
- 空いた時間の使い道を先に決めておくと、戻りにくくなります
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