新人教育でイライラする自分の整え方
同じ質問を、今週三度目に受けた瞬間。画面から目を離さないまま「さっき言いましたよね」と返した自分の声に、思ったよりトゲがあった。相手が小さく謝って席に戻っていく背中を見ながら、胸のあたりがざらつく。夜、帰りの電車で「新人 教育 イライラ」と打ち込んでいる自分に、少しだけ嫌気がさしている——。
こんにちは、縁の整え方の専門家・出雲です。最初にお伝えしておきますね。この記事は、新人の欠点を並べる記事ではありません。教え方の工程を組み立て直す話は別の場所に譲って、ここでは、あなたの内側に湧いているイライラそのものを扱います。相手を変える前に、まず自分の側の温度を下げておくほうが、結局は近道になるからです。
結論|イライラは消すものではなく、分解して置き場所を作るもの
- イライラが湧くのは、あなたが役目を引き受けている証拠です。人柄の問題ではありません
- イライラの正体は一つではなく、三つの信号が同時に鳴っている状態です
- 湧いた瞬間にできるのは、考え方を変えることではなく、体と言葉を止めることです
- 何度整えても減らないときは、あなたの負荷の量そのものを疑ってください
- 最後に、指導とハラスメントの線引きも整理します
イライラする自分を、まず責めないでください
「新人にイライラするなんて、余裕がない」「昔は自分もできなかったのに」。そうやって、感情そのものを悪いことにしてしまう方がとても多いのです。
けれど、どうでもいい相手に人は苛立ちません。イライラが湧くのは、あなたがその仕事の質に責任を持っていて、期日を守ろうとしていて、相手にできるようになってほしいと思っているからです。関わりを放棄していれば、こんな感情は生まれません。
問題は、感情が湧くことではなく、湧いた感情の行き先です。行き先が用意されていないと、いちばん近くにいる人——つまり新人に流れます。だから、置き場所を作りましょう。
イライラの中身は、三つの信号が同時に鳴っている状態
ひとかたまりに感じる苛立ちを、分けてみます。だいたい次の三つが、同時に鳴っています。
一つ目は、予測が外れた信号です。「これくらいは伝わるだろう」と思った線を越えなかった。人は、予測が外れると不快を感じるようにできています。相手の能力への評価ではなく、単に自分の見積もりが外れた音なのですね。
二つ目は、時間を奪われる信号です。教える時間は増えたのに、自分の担当分は減っていない。今日中に終わらないかもしれない、という焦りが、苛立ちの形をとって出てきます。実はこれが、いちばん比重が大きいことが多いのです。
三つ目は、過去の自分と比べる信号です。「私はこうして覚えた」「聞ける先輩なんていなかった」。この信号は厄介です。比べているのは相手の力ではなく、あなたが飲み込んできた苦労のほうだからです。ここが鳴っているとき、言葉はいちばんきつくなります。
苛立った日に、三つのどれが鳴っていたかだけメモしてみてください。「二番だった」とわかるだけで、相手への評価が一段下がるのを防げます。名前のついた感情は、扱えるようになります。
湧いた瞬間の、六秒の一次対応
その場でできることは、考え方の修正ではありません。感情のピークは数秒で通り過ぎますから、その数秒だけを乗り切る仕組みを持っておきます。
- 手を止める。キーボードから指を離し、体を相手のほうへ向ける。ながらで答えると、声にトゲが乗ります
- 一度、息を吐く。吸うより吐くほうが先です
- 最初の一言を、決めた定型にする。「もう一度いきますね」「どこまで進みましたか」。この二つがあれば、たいていの場面は渡れます
- 語尾を下げない。同じ内容でも、語尾が落ちると詰問に聞こえます
- 限界に近いと感じたら、場を離れる。「ちょっと確認してから戻りますね」と言って、三分だけ席を立ってください
五つ目を後ろめたく思わないでください。その場で答えないことは、放置ではなく手当てです。三分で戻ってきたあなたの言葉は、あの瞬間に出た言葉よりずっと役に立ちます。
一日の終わりに、三行だけ棚卸しする
持ち帰らないための仕組みも作っておきましょう。退勤前に、三行だけ書きます。
一行目、今日鳴った信号は何番だったか。二行目、実害はあったか。納期が遅れたのか、やり直しが出たのか、それとも気持ちだけだったのか。三行目、明日に持ち越す必要があるか。
書いてみるとわかりますが、実害の欄が空のことがかなりあります。気持ちは動いたけれど、仕事は回っていた。この確認をしておくと、翌朝その人を見たときの構えが変わります。
逆に、実害の欄が埋まり続けるなら、それは感情ではなく仕組みの話です。どこで詰まっているかを整理したい方は、扱いにくい部下への接し方|依頼の出し方を変えるに、依頼の工程と症状の対応をまとめてあります。伝え方の言葉そのものを整えたい方は、角が立たない頼み方の例文|通る言い方のほうが早いかもしれません。
減らないときは、あなたの負荷の量を疑ってください
何度整えてもイライラが引かないとき、原因があなたの気質でも新人でもないことがあります。
教育の時間が、業務時間として認められていない。自分の担当分が一つも減っていない。教育の負担が、評価にも記録にも表れていない。この三つが揃っていると、どんな心構えでも持ちません。余裕のなさは性格ではなく、配分の結果です。
上長に伝えるときは、感情ではなく数字にします。「大変です」ではなく「一日およそ一時間半、質問対応に使っています。私の担当を一件、来月まで外していただけませんか」。時間と、具体的な依頼を一つ。この形なら、相談として受け取ってもらえます。
そして、我慢の総量が限界に近づいているサインは、たいてい体に先に出ます。眠りが浅い、休日も気持ちが晴れない、以前は流せたことが流せない。そういう状態が二週間ほど続くなら、工夫より先に医療機関やカウンセリングへ相談してくださいね。限界の見分け方は我慢しすぎる人の限界サイン|静かに来る3つの形にまとめています。
越えてはいけない線と、ぶつけてしまったあとの戻し方
イライラを相手にぶつけた場合、それがハラスメントとして扱われる線があります。知っておくほうが、かえって落ち着いて指導できます。
行為ではなく人格に触れたとき、線を越えます。「ここの手順が抜けています」は指導ですが、「何度言えばわかるの」「向いてないんじゃない」は指導ではありません。他の人がいる場での叱責、ため息や無視で伝えようとすること、必要な情報を渡さずに放置すること、長時間の呼び出しの繰り返し、業務と関係のない要求。これらも越えている側です。
もう言ってしまった、という方へ。戻し方はあります。翌日でいいので、短く事実だけで伝えてください。「昨日の言い方はよくなかったです。急いでいたのは私の都合でした」。長い謝罪はかえって相手を緊張させます。そして、そのあとは何事もなかったように、いつもどおりの依頼を出すこと。関係は、言葉より次の一手で戻ります。
自分の言動に不安があるなら、社内のハラスメント相談窓口に、当事者としてではなく相談する側として聞いてみるのが確実です。社内で聞きづらいときは、各都道府県労働局の総合労働相談コーナーで無料の相談ができます。
縁を整える視点|教える側には、気が二重に流れています
昔から、人にものを教える役目は、自分の分と相手の分、二人分の気を回すことだと言われてきました。自分の仕事を進めながら、相手の理解の速度に合わせて言葉を選び直す。二重に流れていれば、減りが早いのは当たり前なのですね。
私が思うのは、イライラは相手への感情に見えて、多くの場合「自分の残量が減っている」という知らせだということです。だから、相手を変えようとするより先に、あなたの回復のほうに手を入れるほうが早い。眠りが浅い時期にいちばん語気が強くなる、というのは、本当によく伺う話です。夜の環境から整えたい方には、寝室の整え方|七日間で仕上げる手順で、順を追った手順をお話ししています。
そして、教える相手との縁は、思っているより短いものです。半年後にはできるようになり、一年後には別の部署にいるかもしれない。今の数か月をどう渡したかだけが、そのあとの関係の形を決めます。
まとめ|感情を消さずに、置き場所を作る
- イライラは、責任を引き受けている人にだけ湧きます。責めないでください
- 三つの信号のどれが鳴ったかを名づけると、相手への評価に変換されずに済みます
- その場は六秒の一次対応。減らないときは、心構えではなく負荷の量を疑いましょう
教える側の消耗は、誰にも言いづらいものですよね。今の職場が、あなたをどれくらい削っているのか、一度外から見てみませんか。
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