結婚しない選択とまわりの目|引き受け方
会社の給湯室で、同僚の結婚の話になる。おめでとうと言って、指輪を見て、いいねと笑う。そこまでは何ともない。けれど部屋に戻る途中で上司にすれ違って、「で、あなたはどうするの」と軽く言われた瞬間、なぜか足が止まる。悪気がないのはわかっている。それなのに、その日の夜、自分の選択がふいに心もとなく感じられる——。結婚しない選択とまわりの目を検索したあなたは、たぶん、その夜のどこかにいるのだと思います。
先に、この記事の立場をお伝えしておきます。結婚しない生き方を勧める記事でも、結婚したい人を否定する記事でもありません。どちらも同じだけ真っ当な選び方です。
- まわりの目と、自分の中の揺れは、まったく別の問題です。混ぜると苦しくなります
- 外側(まわりの言葉)は、説明ではなく扱い方の問題です
- 内側(自分の揺れ)は、消す必要はありません。選択として引き受ける作業をすると、揺れても倒れなくなります
まず、外側と内側を分けます
しんどさが強くなるのは、この二つが混ざっているときです。
たとえば法事で「まだ一人なん」と言われた夜に、眠れなくなる。このとき苦しめているのは、伯母さんの一言そのものではありません。その一言が、あなたの中にもともとあった小さな揺れに触れたからです。逆に、自分の中がしっかり定まっている時期には、同じ言葉を聞いても翌朝には忘れています。
つまり、外側の言葉は引き金であって、原因ではないのですね。ここを分けずに「まわりが悪い」とだけ考えると、人と会うのが怖くなります。「私が迷っているのがいけない」とだけ考えると、自分を責めることになります。どちらも違います。
だから、この記事も二つに分けて書きます。前半は外側の言葉のかわし方。後半は、自分の揺れをどう扱うか。両方を同じ日にやらなくてかまいません。
外側|まわりの言葉は、3つの原則でかわします
まず知っておいてほしいのは、あの手の質問の多くは、答えを求めていないということです。話題の在庫が切れたときに出てくる、儀礼のような一言です。だから、まじめに答えるほど話が伸びます。
原則は3つだけです。
原則1 説明しない
なぜ結婚しないのかを説明すると、その一つひとつに感想がつきます。仕事のせいだと言えば働きすぎだと言われ、いい人がいないと言えば紹介の話になる。理由は渡さないほうが会話が短く終わります。
「今はこの暮らしが気に入っているんです」で十分です。中身は言わなくていいのですね。
原則2 同意も反論もしない一言を持っておく
反論すると議論になり、同意すると次の質問が来ます。どちらでもない言葉をひとつ持っておくと楽です。
「そうですねえ、いろいろありまして」
「気にかけてくださって、ありがとうございます」
お礼で受けるのは強い手です。拒絶ではないのに、それ以上押せなくなります。
原則3 場を変える
言葉で勝とうとせず、その場から静かに離れます。お茶を注ぎに立つ、席を移る、別の人に話しかける。会話から抜けるいちばん自然な方法は、立ち上がることです。
親戚の集まりのように逃げ場のない場での具体的な返し方は、独身で親戚に肩身が狭いときの角を立てない返し方に、そのまま口に出せる例文の形でまとめてあります。当日の座り方や滞在時間の組み立てもそちらにありますので、法事や正月が近い方は先に読んでおくと動きやすいですよ。
そして、外側で一番こたえるのは、友人関係の変化かもしれません。結婚や出産で話題が変わり、会っても前ほど話が続かなくなる。これは相手が変わったのでも、あなたが取り残されたのでもなく、生活の周期がずれただけです。距離の取り直し方は波長が合わなくなった友達を手放すときの5つの手順にまとめました。手放すという言葉が重ければ、間隔を空けるだけでも十分です。
内側|揺れは、選択が間違っている証拠ではありません
ここからが後半です。
結婚しないと決めている人でも、揺れる瞬間はあります。私が伺ってきた限り、揺れが出るのは決まった場面です。
- 友人の子どもが大きくなっていくのを見たとき
- 自分が熱を出して、一人で天井を見ていたとき
- 親が年を取ってきたと感じたとき
- 正月やお盆など、家族の単位で動く行事のとき
- 職場や住まいが変わって、話す相手が減ったとき
こうした場面で心細くなるのは、選択を間違えたからではありません。人が誰かとつながっていたいと感じるのは自然なことで、その気持ちと結婚するかどうかは、本来別のものです。
揺れたときに危ないのは、その場で結論を出し直そうとすることです。熱を出した夜に「やっぱり結婚しておくべきだった」と考えるのは、判断ではなく体調です。揺れは、来たら通り過ぎるまで待つ。翌朝もまだ同じことを考えていたら、そのときに扱う。この順番で十分です。
「選択として引き受ける」とは、何をすることか
結婚しないという選択が心もとなくなるのは、それが「しない」という形をしているからです。何かをしないことは、そのままでは輪郭を持ちません。輪郭を作る作業を、私は引き受けると呼んでいます。やることは4つです。
- 言葉にする。「結婚しない」ではなく「今の暮らしを続ける」と、肯定形で一行書きます。しないことではなく、することとして書くのがこつです
- 備えを具体化する。住まい、お金、入院時の保証人や緊急連絡先、判断ができなくなったときに誰に頼むか。一人で暮らす前提の備えを、書けるところから書いていきます
- 関係を複線化する。頼れる相手を一人に集中させないようにします。友人、きょうだい、地域のつながり、仕事の外の集まり。細い線が何本かあるほうが、太い線一本より切れにくいのですね
- 更新日を決める。三年に一度でも、誕生日でもかまいません。その日に、この選択を続けるかどうかを見直すと決めておきます
4番目があると、選択が固定されずにすみます。一生を今日決める必要はありません。今の三年を決めるだけです。
2番の備えのうち、老後の不安が具体的に重いという方は、老後に一人で不安なときに今からできる備えを読んでみてください。漠然とした不安は、項目に分けて書き出すと、思ったより小さくなります。
そして、他人の評価の中で自分の輪郭を見失いがちな方には、自分軸で生きる方法が土台になりますよ。
結婚したい気持ちが残っていても、かまいません
最後にもうひとつ。
結婚しない選択をした人の中には、結婚したい気持ちがまったくない人もいれば、条件が合えばしたい人もいます。今はしないけれど、この先はわからないという人もいます。どれも矛盾ではありません。
私が気になるのは、「選んだ以上は迷ってはいけない」と自分を縛ってしまう方が多いことです。そう縛ると、揺れが出るたびに自分を疑うことになります。選択というのは宣言ではなく、暮らしの続け方です。続けながら見直していいものなのですね。
そして、結婚を望む人を下に見ないでください。逆も同じです。まわりの目に傷つけられた経験があると、つい反対側を否定したくなりますが、それをすると、あなたが嫌だったことと同じ形になってしまいます。それぞれが自分の暮らしを選んでいるだけ、という地点に立てると、外からの言葉もずいぶん軽くなります。
縁を整える視点から
縁の巡りという観点でお話しさせてください。
昔から、人の縁は結ぶものだと言われますが、結び方は一種類ではありません。夫婦という結び方もあれば、友人、きょうだい、仕事、地域という結び方もあります。私は、どの結び方が上ということはないと思っています。大事なのは、あなたを支える線が何本あるかです。
結婚しない選択が心細くなるのは、縁がないからではなく、線が細くなっている時期だからということが多いのですね。だからそういうときは、結婚について考え直すより先に、細くなった線を一本だけ結び直してみてください。しばらく会っていない人に連絡する、通う場所をひとつ作る。それだけで、夜の心細さの質が変わります。
結婚しないことは、縁を断ることではありません。縁の形を、自分で決めているということです。決めた人の暮らしは、時間が経つほど落ち着いていきますよ。
まとめ
- まわりの目と自分の揺れは別問題です。混ぜないところから始めましょう
- 外側は、説明しない・同意も反論もしない一言を持つ・場を変える、の3原則でかわせます
- 内側は、肯定形で言葉にし、備えを具体化し、関係を複線化し、更新日を決めると、揺れても倒れません
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